近年、BtoB企業の間でも、インターネットを活用した直販の取り組みが急速に広がってきました。
取引の効率化や新たな販路の開拓を目的に、「自社でもECサイトを立ち上げたい」と考える企業が増えていることは、ごく自然な流れだと思います。私のもとにも、同様のご相談が年々多く寄せられるようになりました。
しかし、その一方で、ECサイトの立ち上げを検討される企業の多くが、ある共通した誤解を抱えているように感じます。
それは、「ECサイトを作れば、あとは自然に売れていく」というイメージです。もちろん、そんなことはありません。むしろ現実は、その逆だと言ってもよいでしょう。ECサイトは、公開した瞬間からが本当のスタートです。そこからどのように運営し、育てていくかによって、成果は大きく変わっていきます。
私はこれまで、数多くのBtoB企業のECサイトに関わってきました。その中には、立ち上げ直後から順調に売上を伸ばしていった例もあれば、数年後にはまったく動きのない“眠ったサイト”になってしまった例もあります。さらに言えば、力を入れて運営しているにもかかわらず、毎年赤字が積み重なっていくというケースも珍しくありません。こうした状況に直面して初めて、「なぜ思うようにいかないのか」と悩み、私にご相談いただく企業も少なくないのです。
そもそも、ECサイトは単なる販促ツールではありません。
それは、ひとつの「事業」です。
実店舗を出店する際には、経営者自らが陣頭に立ち、立地の選定や商品構成、販売方法、人員体制、集客施策、収益計画に至るまで、綿密に計画を練り上げるはずです。ところがECサイトとなると、なぜか「制作会社に任せれば何とかなる」と考えてしまう企業が少なくありません。この意識の差こそが、後々の結果を大きく左右します。
本稿では、BtoB企業がECサイトを立ち上げる際に陥りやすい落とし穴と、その本質的な原因について、私の経験をもとにお話ししたいと思います。そして、ECサイトを単なる「制作案件」ではなく、「事業運営」として成功させるために、どのような視点が必要なのかを、順を追って考えていきたいと思います。
第一の誤解:制作 = 完成
誰も本気で売る責任を負っていない

ECサイトのご相談を受けていると、ある共通した傾向に気づきます。
それは、多くの企業が「ECサイトの立ち上げ」を、ひとつの制作案件として捉えているという点です。
つまり、ホームページのリニューアルや会社案内の制作と同じような感覚で、「とりあえず作れば形になる」と考えてしまうのです。
もちろん、制作そのものは重要な工程です。
どのような構成にするのか、どのようなデザインにするのか、どのような機能を持たせるのか――。
こうした検討は、ECサイトの基盤づくりとして欠かせません。しかし、それはあくまでも“準備段階”に過ぎません。問題は、その後の運営にあります。
ところが現実には、サイトが公開された瞬間に、「これでひとまず完成した」と考えてしまう企業が少なくありません。
公開後の具体的な運営計画や役割分担、売上目標、集客施策、データの分析方法といった点について、十分な準備がなされないままスタートしてしまうのです。結果として、日々の業務に追われる中で、ECサイトの運営は後回しになり、気がつけば更新も止まり、訪問者の少ない状態が続くという状況に陥ります。
さらに注意しなければならないのは、制作会社との関係です。
多くの場合、ECサイトの構築は外部の制作会社に依頼することになります。それ自体は決して悪いことではありません。専門的な技術や知識を活用することは、事業を前に進めるうえで必要な選択です。ただし、制作会社はあくまで“サイトを作る専門家”であり、“商売を成功させる責任者”ではありません。
制作の考え方や運営の方向性までも制作会社の提案に委ねてしまうと、本来企業が持つべき主体性が失われてしまいます。
その結果として起こるのが、「誰も本気で売る責任を負っていないECサイト」です。
担当者は制作会社の説明を信じ、制作会社は契約どおりにサイトを完成させる。そして経営者は進捗報告だけを受けて、「新しい取り組みが進んでいる」と安心してしまう。こうした構図は決して珍しいものではありません。しかし、この時点ですでに、将来の成果を左右する重要な歯車がかみ合っていないことに気づくべきなのです。
ECサイトは、作ることが目的ではありません。
売上を生み、顧客との関係を築き、企業の新しい成長の柱となることが本来の役割です。そのためには、公開後の運営こそが主役であり、制作はそのための出発点に過ぎないという認識を持つことが不可欠です。
ECは「店舗出店」である
画面の中にある、もう一つの実店舗

私は、ECサイトの立ち上げをご説明する際、よく「実店舗の出店」にたとえてお話しします。
この例えは、ECを理解していただくうえで非常に分かりやすいからです。
仮に、自社で新しく店舗を出すと決まったとしましょう。
そのとき、経営者はどのように行動されるでしょうか。まず出店の目的を明確にし、どの地域に、どのような規模で店を構えるのかを検討します。次に、取り扱う商品の品ぞろえや価格の考え方、店内の導線や装飾、販売方法、接客の方針、スタッフの人選や教育まで、細部にわたって計画を練り上げるはずです。さらに、どの程度の売上を見込み、どれくらいの期間で投資を回収するのかという収益設計も欠かせません。
つまり、店舗出店は単なる「建物づくり」ではなく、明確な目的と計画に基づいた事業そのものなのです。
ところが、ECサイトとなると、この当たり前の発想がなぜか薄れてしまうことがあります。画面の中に存在する店舗であるがゆえに、実体がないように感じられ、「まずは作ってみよう」という軽い判断になりがちなのです。
しかし現実には、ECサイトは実店舗以上に運営の難易度が高い側面があります。
店舗であれば、目の前を通るお客様に気づいていただくこともできますし、対面で説明や提案をすることもできます。ところがECサイトでは、存在そのものを知っていただくところから始めなければなりません。さらに、商品情報の伝え方や購入のしやすさ、問い合わせ対応のスピードなど、すべてが数字として結果に表れます。運営の質が、そのまま成果に直結するのです。
また、店舗の場合には店長という責任者が明確に置かれ、日々の売上や来店状況を確認しながら改善を重ねていきます。
ECサイトでも、本来は同じです。誰が責任を持って運営するのか、どのような目標を掲げるのか、どのように成果を検証し次の手を打つのか。こうした運営体制が整っていなければ、事業として成長させることはできません。
ECサイトは、画面の中にあるもう一つの店舗です。
だからこそ、「サイトを作る」という発想から一歩進み、「店舗を経営する」という視点で向き合うことが求められます。この意識の違いが、後々の成果を大きく分けることになるのです。
戦略なきECの末路
「取り敢えず作ろう」が生む負の連鎖

ここまでお話ししてきたように、ECサイトは本来、明確な目的と計画に基づいて立ち上げるべき事業です。
しかし現実には、その準備が不十分なままスタートしてしまう企業も少なくありません。そして、その結果としてどのような状況が生まれるのか――。私はこれまで、同じような経過を何度も目にしてきました。
まず、公開当初は社内に一定の期待感が生まれます。
新しい取り組みとして注目され、関係者の間でも話題になります。しかし、数か月が経過すると、目に見える成果が出ないことに対する焦りが徐々に広がっていきます。それでも、「立ち上げたばかりだから」「もう少し様子を見よう」と判断が先送りされることが多く、具体的な対策が講じられないまま時間だけが過ぎていきます。
やがて一年ほど経つと、運営の現場では別の問題が表面化してきます。
担当者は日々の業務に追われ、ECサイトに十分な時間を割くことが難しくなります。アクセス数や受注件数の推移を確認しても、何が原因で成果が伸びないのかを分析する余裕やノウハウがなく、改善の手を打てないまま運営が続けられます。こうした状況の中で、誰もが「うまくいっていない」という感覚を持ちながらも、はっきりと責任の所在を示せないという空気が社内に生まれていきます。
さらに厄介なのは、明確な戦略目標が設定されていない場合です。
売上目標や収益計画が曖昧なままスタートしていると、成果の評価基準もあいまいになります。そのため、たとえ赤字が続いていても、「新しい挑戦だから仕方がない」「まだ投資段階だ」といった説明で済まされてしまうことがあります。特に企業規模が大きいほど、EC事業単体の損益が経営全体に与える影響は小さく見えがちで、問題の深刻さに気づくまでに時間がかかる傾向があります。
こうして対策が後手に回るうちに、ECサイトは徐々に活力を失っていきます。
更新頻度が下がり、商品情報も古いままになり、訪問者の数も減少していきます。気がつけば、ほとんど動きのない“存在だけのサイト”になってしまうのです。あるいは逆に、売上を伸ばそうと広告費や運営コストを増やした結果、力を入れれば入れるほど赤字が膨らむという悪循環に陥ることもあります。
ECサイトの失敗は、突然訪れるものではありません。
小さな判断の積み重ねと、戦略不在の状態が長く続くことで、気づかないうちに事業としての可能性を失ってしまうのです。だからこそ、立ち上げの段階から「どのように育てていくのか」を真剣に考えることが欠かせません。