4.間違った選択が招く典型的な失敗

よくある失敗の構図
最初から「本格的」を目指した企業の末路

ここで、ある企業の事例を想定してみたいと思います。
これは特定の会社の話ではありませんが、私がこれまでに見聞きしてきた多くのケースに共通する典型的な流れです。

その企業は、長年にわたり製造業として安定した取引基盤を築いてきました。
扱う製品は数百点にのぼり、既存の販売チャネルを通じて全国の取引先へ供給されていました。

近年、業界全体でインターネット販売の話題が増え始めたこともあり、経営者は「自社もEC事業に取り組むべきではないか」と考えるようになります。
新規顧客の開拓、営業の効率化、将来の成長基盤づくり――。
ECへの期待は社内で急速に高まり、プロジェクトが立ち上がりました。

この段階で決定された方針は、
「どうせ始めるなら、本格的にやろう」
というものでした。

販売対象の商品は、主力製品だけでなく周辺製品も含めて一気にEC化することになり、結果として数百点規模のラインアップでスタートする計画が立てられます。
ターゲットも既存顧客に限定せず、新規の法人顧客まで広く想定されました。

ECサイトの構築にあたっては、自由度の高い仕組みが望ましいという判断から、オープンソース型のプラットフォームであるEC-CUBEが採用されました。

EC-CUBEは、日本国内で広く利用されているEC構築の代表的な仕組みのひとつです。
基本機能が公開されており、自由にカスタマイズできる点が大きな特長です。

たとえば、商品管理の方法や受注の流れ、画面構成などを自社の考え方に合わせて設計することができます。
既存の業務フローに近い形で運用モデルを構築できるため、「自社仕様のECサイトを作りたい」と考える企業にとっては魅力的な選択肢と言えるでしょう。

さらに、ライセンス費用が不要であることも導入の後押しとなります。
システムそのものに対する初期投資を抑えながら、本格的なECサイトを構築できるという説明は、経営者にとって非常に説得力のあるものです。

こうしてプロジェクトは順調に進んでいきました。
制作会社との打ち合わせを重ねながら、サイトの設計やデザインが固まり、数か月後には公開の日を迎えます。

社内では、新しい取り組みへの期待が高まりました。
営業担当者も、「これからはECで注文が入るようになるかもしれない」と前向きに捉え、運営担当者も新しい業務に意欲を見せていました。

しかし、問題は公開後に徐々に表面化していきます。

まず、商品点数の多さが運営の負担として重くのしかかりました。
数百点の商品情報を整理し、価格や仕様を正確に登録する作業は想像以上に時間がかかります。
さらに、取引先ごとの条件を反映させる調整も必要となり、日々の更新作業が追いつかない状態が続きました。

次に、受注対応の流れにも混乱が生じます。
ECサイトから入る注文と従来の営業経由の注文が並行して発生するため、在庫管理や出荷手配の判断が複雑になり、社内の連携に思わぬ負荷がかかりました。

また、EC-CUBEは自由度が高い反面、運用を安定させるためには継続的な保守や調整が欠かせません。
システムの仕様変更や機能追加のたびに制作会社への依頼が必要となり、その都度費用が発生します。

当初は「自由に設計できる」という点が魅力に映っていましたが、実際の運営では
「どこまで自社で判断し、どこから制作会社に依頼するのか」
という線引きが曖昧になり、意思決定に時間がかかるようになりました。

さらに、集客の問題も見過ごせませんでした。
数百点の商品を掲載したにもかかわらず、新規顧客からのアクセスは思うほど伸びません。
広告施策を試みても、どの商品を主軸に訴求すべきかが定まらず、効果が分散してしまいます。

その結果、サイトの運営コストは徐々に増えていきました。
更新作業の人件費、システム保守費、広告費――。
しかし売上は期待したほど伸びず、社内には次第に焦りが広がっていきます。

一年が経過した頃には、ECサイトは確かに存在しているものの、
「どう活用すればよいのか分からない」
という空気が漂い始めていました。

この事例から見えてくるのは、EC-CUBEという仕組みそのものの問題ではありません。
自由度が高く、自社仕様の設計が可能であるという特長は、正しく活用すれば大きな強みとなります。

しかし、事業の進め方が伴わなければ、その自由度は逆に運営の難しさへとつながることもあるのです。

最初から中規模のEC事業としてスタートし、多くの商品を一度に扱おうとしたこと。
ターゲットや販売モデルを十分に絞り込まないまま運営を始めたこと。
こうした判断の積み重ねが、結果として運営の負担を増やし、改善の余地を見えにくくしてしまいました。

EC事業は、仕組みの性能だけで成功するものではありません。
どの規模から始めるのか、どの商品に集中するのか、どのような順序で拡大していくのか――。
こうした戦略的な視点が欠けていると、優れたプラットフォームを採用していても成果につながりにくいのです。

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