閑話休題

すべての事業は、見込形態と受注形態の2形態に分かれる

新規開拓マーケティングは私の専門分野であり、これまでに多くの企業の新規開拓の仕組みづくりに関与してきました。新規開拓マーケティングの具体的な定義については別途コラム欄で詳しく述べていますので、興味のある方は是非ご一読ください。

今回は、新規開拓に関して多くの企業の社長から相談を受ける中で感じる、ある種の違和感について触れたいと思います。それは、多くの企業が自社の『売り』を明確に理解していない点にあります。

新規開拓マーケティングを実施する際の基本中の基本は、「自社の売りは何か?」を明確にすることです。しかし、実際には多くの企業でこの点にズレが生じています。特に製造業の社長との間でこの問題が顕著に表れることが多いのです。

そこで、まず初めに自社の「売り」を見つけるポイントについてご説明します。一般的に、「売り」とはターゲットとするお客様が魅力を感じ、かつ競合他社との明確な違いを理解できる要素のことを指します。つまり、これら2つの要素を明確にすることが「売り」の定義となります。

しかし、ここでよくある誤解が生じます。それは、企業が自分たちの得意とする点を「売り」としてアピールすることです。これは、失敗する大きな要因となりますので、注意が必要です。もちろん、自社の得意とする点が「売り」の2つの要素に合致する場合は、最良のケースですが、その確立は非常に低いのが現実なのです。

各企業ごとに「売り」は異なり、多種多様ですが、実際には「売り」の訴求ポイントは2つに大別することができます。そして、多くの社長が誤解を招くのが、この2つの訴求ポイントです。

新規開拓マーケティングの成功の鍵は、こうした基本的なポイントを理解することにあります。

世の中には多くの事業形態が存在しますが、基本的には「見込形態」と「受注形態」の2つに大別できます。見込形態とは、商品を予め生産したり仕入れたりする事業形態で、一般消費財メーカーが典型的です。

一方、受注形態は、お客様からの依頼を受けてから製造やサービスを提供する事業形態で、下請け事業などがこれに該当します。

しかし、取り扱う商品が同じ場合は、見込形態と受注形態の区別が難しいこともあります。例えば、洋服屋さんの場合、既製服を販売する事業は見込形態であり、オーダーメイドの洋服屋さんは受注形態となります。印刷物を扱う事業では、印刷会社は受注形態、出版業は見込形態といえます。住宅建築業では、建て売り住宅は見込形態、注文住宅は受注形態となります。

このように、同じ商品やサービスでも、見込形態と受注形態に分けることができます。そして、これら2つの形態には各々の長所と短所が存在します。

見込形態の事業は、商品がヒットすると大きな利益を上げる可能性があり、企業の急成長が期待できます。しかし、商品が売れない場合は、一気に倒産の危機に直面することもあります。この点において、見込形態の事業には博打的な要素が含まれていると言えるでしょう。

一方、受注形態の事業は、お客様の要望に応えることが重要であり、品質、価格、納期といった「売り」の三大要素がお客様の要望によって決まります。受注形態の事業は、見込形態のような大きな利益を上げることは難しいものの、一気に倒産するリスクは低いと言えます。この点で、受注形態の事業は地道に事業を推進することが重要となります。

現在では、多くの見込形態の企業が受注形態の要素を取り入れ、受注形態の企業が見込形態の要素を取り入れることで、双方の短所を相殺する戦略を採用しています。自動車メーカーの生産方式はこの典型的な例です。自動車の基本性能やデザインは予め定められ、一定量の見込生産が行われます。しかし、販売店ではお客様からのオプション仕様の注文を受け、その注文を基にメーカーに発注します。メーカーはその発注を受けた時点で最終生産を開始するのです。このように、見込形態の生産業も受注生産の要素を取り入れ、双方の短所をうまく相殺する仕組みを構築しています。

ここまでで、「見込形態」と「受注形態」の特性について理解できたと思います。では、これら2つの形態における「売り」は何かというと、見込形態は「商品の能力」に、受注形態は「人へのサービス」に焦点を合わせた訴求を行います。これが大きな違いとなります。

この話を進める中で、読者の中には「BtoB(ビジネス・トゥ・ビジネス)」と「BtoC(ビジネス・トゥ・コンシューマー)」の違いによる影響が重要ではないかという疑問を抱く方もいるかもしれません。この点については、次回の事例ブログで詳しくお話ししたいと思います。

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