中小零細企業にとって、「新たな顧客を探し続ける仕組み」は単なる戦略ではなく、まさに“事業存続の命綱”です。大口得意先一社に頼りきりであったがゆえに、景気の波に巻き込まれ倒れていった企業の実例から、私自身が30年以上の経営・営業経験を通じて得た教訓をお伝えします。
経緯と経験の共有
私は会社員を経て、30歳のときに起業しました。以来、30年以上にわたり多くの中小企業が倒産していく姿を目の当たりにしてきました。
その中で気づいたのは、新規開拓に“力”を持つ企業は倒産のリスクを大きく下げており、逆にそれを欠く企業は危険性が高いという、非常にシンプルながらも本質的な事実です。
私が最初に勤めたパッケージ資材の会社において、下着用ラベルや封入袋などの副資材を納めていた取引先の繊維メーカーが、突然倒産しました。下着工場の工場長から定期的な発注をもらい、「うまく回ってるな」と感じていた矢先の出来事でした。
債権回収の現場に赴いたとき、既に複数の債権者が詰めかけており、私は何もできずに「見送る側」の立場に変わっていました。驚くべきことに、その会社は数年間にわたって赤字経営が続いており、大口得意先からの価格交渉が一つの引き金になったと聞きました。
この体験から私が得た、ある重要な気づきがあります。
“どんなに太い得意先・取引ルートを持っていても、永続的に頼り続けることはできない”という事実。
表面上は順調に見えても、経営裏側に火種を抱えているケースは決して少なくない。
そして、こう考えるようになりました。
「最悪の事態を避けるためには、常に“新たな取引先”を探し続け、一社依存でビジネスを成立させてはいけない」と。
なぜ「新規開拓」が事業継続のキーファクターなのか
ここからは、なぜ“新規開拓”が中小零細企業にとって不可欠なのかを、3つの観点から整理します。
1.得意先依存のリスクと波及効果
1社の大口得意先からの発注が長年続いていると、「この先も安定している」と錯覚しやすくなります。しかし、景気悪化や業界の構造変化でその得意先が価格交渉を強めたり、取引を縮小したり、最悪の場合倒産したりする可能性があります。上記の繊維メーカーのケースがまさにその典型です。
中小企業がこのリスクを軽視すると、売上の減少→資金繰り悪化→倒産というスパイラルに陥る可能性があります。逆に、取引先を複数確保し、新規開拓を続けている企業は、いずれかの取引が途絶えても他で補填できる余力を持つわけです。
2.外部環境の変化に対する備え
業界景況だけではなく、グローバル化・技術革新・顧客ニーズの変化などが、中小企業を取り巻く環境を年々厳しくしています。例えば、繊維業界のように、国内製造から海外委託へと流れが変わったり、購買条件が厳しくなったりという構造変化が起こります。私が経験した繊維下着の会社も、こうした構造的な変化の影響を受けていました。
新規開拓とは、単に“新しい得意先を探す”だけではなく、「変化する市場に対して自社がどこで勝負できるか」「どんなニーズが生まれているか」を見抜き、対応を仕組み化することでもあります。つまり、環境変化に対する“備え”でもあるのです。
3.企業体力・組織風土の強化
新規開拓を日常的に行っていると、営業・マーケティングが“活動”として定着します。見込み客の発掘、アプローチ、提案、フォローというサイクルが回ることで、営業部門だけでなく社内全体の意識が「継続的な成長」に向かいやすくなります。
一方、目先の受注だけに頼るスタイルでは、「今月/今期で何とか数字を合わせよう」という短期視点に偏りがち。長期的な組織体力や仕組みづくりに目が向きません。結果として、外部環境変化や一時的な打撃に弱くなります。
新規開拓を仕組み化するための実践ポイント
では、具体的に「新規開拓を仕組みとして持つ」にはどうすればよいか。中小製造業・商社・卸向けに、実践しやすいポイントを整理します。
1.得意先ポートフォリオを見直す
まず、現在の得意先構成を改めて見てください。売上構成のうち、1社あたりの割合/上位数社の累計シェアが高くなっていませんか?もし「売上の50%以上が1~2社」という状況なら、依存度が高く、リスクが顕在化しています。
このような状況では、並行して“もう1つ、もう2つ”の取引先を開拓する動きが必要です。
2.ターゲット市場・業界を再検討する
繊維業界のように構造変化が激しい分野では、取引先が変動しやすい傾向があります。ですので、自社の強み・素材・技術・対応力を改めて棚卸し、「成長分野」「取引先の多様化可能な分野」「地域・用途を変えた展開先」を検討します。
例えば、従来の商社機能を従来とは別の流通チャネルへ向ける、あるいは海外需要・二次加工分野へシフトするなどが考えられます。
3.営業ツール・販促ツールを整備する
“見つけてもらう”“興味を持ってもらう”仕組みも欠かせません。営業訪問・展示会・紹介・リファラルの他に、WEBサイト・カタログ・提案資料・アプローチシナリオなどを整備しましょう。営業側が動きやすく、反応を得やすい環境を整えることです。例えば、営業パーソンが“初訪問で信頼をつかむアプローチブック”を持っているかどうかで反響は変わります。
4.アプローチ活動の継続と仕組化
新規開拓は“単発の動き”では成果が上がりません。見込み客リストの作成→アプローチ→フォローアップ→商談化/受注というサイクルを継続的に回すことが重要です。月次・四半期・年次で目標を設定し、実績を振り返る習慣をつけましょう。
また、得意先の“横展開”(同一業界・同一用途での別企業)や“紹介チャネル”を意識すると、活動効率が上がります。
5.常に複数の柱を持つ
前述の倒産ケースが示すように、たとえ“今”順調でも将来の保証にはなりません。したがって、自社の主たる得意先以外に「もう1つの柱」を持つべきです。例えば、用途別・地域別・顧客別の“3本柱戦略”を構えることで、ひとつが落ちても他で補う余地が生まれます。
まとめ
私たち中小零細企業にとって、“新規開拓マーケティング”はもはや選択肢ではなく、事業継続のための必須条件です。特定の大口得意先だけに頼っていては、外部環境の変化・得意先の経営悪化・価格交渉の激化などによって、あっという間に逆境に追い込まれる危険があります。
逆に、定期的に新しい取引先を探し、営業・販促・営業ツール・仕組みを整備し、継続的に“顧客開拓の回転”を実施している企業は、予想外の打撃や業界構造の変化にも耐えうる体力を備えています。
つまり、
“今”の売上に安心して停滞していてはいけない。“次”を探し、動き続けること。それが事業を長く続けるための鍵だと……。