前回までの3回にわたるシリーズでは、私が目撃し、また体験した倒産劇についてご紹介しました。このテーマに焦点を当てたのは、会社経営における「倒産」が、最悪の結末であり、社会的な「死」を意味する重大な事態だからです。私自身、30数年にわたる経営者人生の中で、3度の倒産危機を体験しました。それらの危機は何とか首の皮一枚で切り抜けることができましたが、ほんの少し判断を誤っていれば、確実に倒産の淵に立たされていたことでしょう。
倒産することは、経営者だけでなく、その家族にも深い悲劇をもたらします。さらに、従業員とその家族も、苦しい思いを強いられることになります。特に経営者の子供にとっては、これ以上ない悪夢となるでしょう。
実は、私も子供の頃に、このような体験をしています。親の事業が悪化し、借金が増大、その結果返済が滞り、一家で夜逃げをする羽目になったのです。私はその時、まだ小学生でした。逃げた先は、現在私の活動拠点となっている大阪でした。親は、大阪の親戚を頼りに夜逃げしたのですが、お金が底をつけば一家心中も覚悟していたという話を聞いています。しかし幸運にも、頼った親戚がその日に住み込みの職場を斡旋してくれ、食と寝床は何とか確保できました。だが、私は住み込むことはできず、その親戚の家に預けられることとなりました。
私にとって、それまで知らなかった大阪の親戚に預けられることは、非常に困難な経験でした。大阪弁も初めて聞くもので、大阪の街も全く知りませんでした。数年間、親戚の家で過ごし、学校に通いながら、親戚のご家族と共に生活しました。幸い、親戚のご家族は私にとても優しく接してくれました。それが何よりの救いでしたが、やはり他人の家で生活することは、何とも言えない肩身の狭さを感じさせるものでした。
私の個人的な話はこれくらいにしておきますが、ここで伝えたいのは、会社の倒産がいかに最悪の事態であるかということです。家族、親類、従業員とその家族、そして自社に材料や部品を卸してくれている仕入・外注先の方々に、多大なご迷惑をおかけすることになるのです。
だからこそ、経営者としては、絶対に倒産させてはいけない。そして、倒産を防ぐための最大にして唯一の方策は「新規開拓」だと断言します。
しかし、現実には、この新規開拓を疎かにしている企業が多いのが実情です。特に安定した大手企業の下請けとして働く中小零細企業ほど、新規開拓に対する関心が薄れています。数十年にわたって大手企業の下請けとして安定した経営を続けることは、素晴らしい成果であり、その裏には数え切れないほどの努力と苦労があることは理解しています。
しかし、それでもなお、新規開拓は絶対に必要なのです。
この先の時代、大手企業であっても安住の日はありません。古い例を挙げれば、パナソニックに次ぐ関西の電器メーカーであった三洋電機は、経営不振により身売りを余儀なくされました。同様に、シャープも経営不振により海外企業に身売りしました。
20代の頃に勤務していた会社では、営業先としてお取引していただいていた「三洋電機が主力受注先のS印刷会社」が、三洋電機の発展とともに売上高を伸ばし、会社自体が拡大成長していました。しかし、三洋電機の経営不振とともに売上減が続き、最終的には倒産しました。また、シャープを主力得意先としていたT広告制作会社もシャープの経営不振に呼応して倒産しました。パナソニックの製品カタログを主力に受注していたK印刷会社も、パナソニックの白物家電の撤退に伴い、大幅な受注減により倒産しました。
このように、安定していると思われる大企業を上得意先としていても、永遠に安心することはできません。特に現代においては、大企業も自社の生き残りのために、M&Aによる事業拡大の中で、仕入れ先や外注先の見直しを繰り返しています。少しの油断で、取引を打ち切られる可能性が高まっているのです。
いずれにせよ、経営環境が目まぐるしく変化する中で、中小零細企業が生き残るためには、持続的な新規開拓が不可欠です。新規開拓は単なる営業活動ではなく、企業の持続的な成長と安定を目指す基盤となる戦略です。
次回より、いよいよ「新規開拓マーケティング」を仕組み化し、持続的に実施するための具体的な方策を、事例を交えてお話ししていきたいと思います。新規開拓の重要性を理解し、戦略的に取り組むことで、企業は困難な状況を乗り越え、持続的な成長を遂げることができるのです。